大事の後の小事


 大きな事件と小さな事件が起こりますと、大きい方から対応しますので、小さい方は後回しになり、忘れられることもあります。

 ある研究室で試薬瓶の1つが吹き出す事故が起こった翌朝、先生が研究室にやってきた。まだ誰も来ていない研究室を見回して「いや〜、昨日は片付けやら、掃除やらで大変やったわ」と独り言を言いながら、足元に目を移すと小さな茶色い染みを見つけた。「ここはちゃんと掃除できてへんやん」と思ってしゃがむと、少し離れたところにも染みがあるのが見えた。その先にもあり、順に辿っていくと、ドラフトチャンバーまで続いていた。そして、ドラフトチャンバーの中は割れた試薬瓶が散乱し、壁は茶色に染まっていた。
 その様子を見て、先生は吹き出した試薬の瓶が2本あることを思い出した。しかし、瓶の底に少し残っている程度だったので、取り敢えずドラフトチャンバーに避難させておいたまま、皆の記憶から消えてしまっていた。先生は仕方がないので、ドラフトチャンバー内の掃除を一人でしたのであった。

室温に置いておくと熱分解するという性質は量が多くても少なくても同じです。ただ、量が少ない分、瓶の内部に空間的な余裕があったために、すぐに破裂する訳ではありませんが、徐々に内部が加圧状態になって夜中に破裂したのだと思われます。この瓶を実験台の上に置いていたら、昨日の二の舞になっていたことでしょうね。