高名の木登り


 徒然草に「高名の木登り」という話があります。木登り名人が人を指導して高い木の小枝を切らせていましたが、その時は黙って見ているのみで、軒先くらいまで降りてきた時に「注意せなあかんで(関西弁ではないでしょうが)」と声を掛けたというものです。危ない場面では本人も注意するけれど、安全な所になってくると油断して怪我をしてしまうからというものです。

 ある学生がカラムの後処理をしていた。1日の疲れで、保護眼鏡をするのも鬱陶しくなってきたので、外して実験台の上に置いた。それを見た後輩の学生が「眼鏡をしとかなあかんのんやないですか」と言うたが、「あとはTLCのチェックだけやから、大丈夫やろ」と取り合わなかった。
 単純作業をしていると、手先への注意も疎かになってくる。その時、キャピラリでサンプリングする際の力加減がうまくできず、先が折れて溶媒の飛沫が目に飛び込んできた。ほとんど溶媒だけなので大丈夫と分かってはいるものの、水道でしばらく目を洗いながら、自分自身に対して腹を立てながら反省をしたのであった。

「高名の木登り」の最後に兼行法師は「身分は低いけど、この男の言うてることは聖人の教えと一致しとる」と述べています。後輩の言うことやからと、判断するものではないですよね。