自己嫌悪


 研究室では、学生が先生の指示を受けて実験をします。その指示が明確であるにも拘らず、正確に伝わっていないことがあります。

 ある4年生の学生が試薬棚から試薬瓶を持ってきて、先生に「これを実験に使おうと思うんですけど、少し汚いんですけど」と言うてきた。先生は「ほんまやな、蒸留してから使おうか」と指示を出した。学生も「分かりました」と言うていたし、減圧蒸留と言っても、それ程高い沸点でもないので、学生に任せることにした。
 暫くして、先生が実験室に入っていくと、蒸留装置が組まれていない。先生が「なんで蒸留してへんの?」と尋ねると、学生は「今やってます」とエバポレータを指して答えた。どうやら受器に溜まった試薬を使う予定であるらしい。「いや、学生実験でも蒸留を経験したやろ、誰に教えてもろうたんや」と言った先生の言葉に対して、学生は悪びれた様子もなく「先生」と人さし指を向けた。先生は自分の虚しさを感じるとともに、自分の無力さを実感し、自己嫌悪に陥ったのであった。

学生実験では、必要な実験操作を体験できるようにプログラムを組んでいます。できるだけ真面目に受けてほしいものですね。