悲惨な話


 一口に乾燥といっても、色々な方法があります。固体をデシケーターで減圧乾燥する時もあれば、硫酸マグネシウムで溶液内に含まれる水分を除去する時もあります。気体ならば、乾燥剤の中を通すという方法を用います。

 ある学生が塩化水素を反応剤に用いる実験を行なうことになった。しかし、水があると試薬が分解してしまうので、塩化水素の気体を反応溶液に吹き込むことにした。ただ一度の実験のためだけに塩化水素のボンベを買うのも阿呆らしいので、自分で発生させることにした。塩(しお)に濃硫酸を滴下すると発生するが、反応容器に導く前に乾燥する必要がある。酸性ガスならば酸性の乾燥剤ということで、濃硫酸を入れたバブラーを取り付けた。
 そうして発生させた塩化水素のガスを反応溶液に吹き込むと、生成物が沈殿として析出し、反応が順調に進んでいる様子が窺われた。「やっぱり、吹き込んだ泡が小さくなるように吹き込み管の先を細くしたんが良かったんやわ」と独り言を言うていた矢先、バブラーが勢い良くはじけ飛んだ。幸い、ドラフトチャンバーのガラスを閉めていたために、飛散した硫酸のシャワーを浴びることは免れたが、一歩間違えれば悲惨な結末を迎えるところであった。

これは管の先端を細くし過ぎたために、気体発生装置側が加圧になり、それに耐えられなくなったバブラーが外れたことが原因です。雁字搦めではなく、少し圧が抜けやすいところを作っておくと、被害は少なかったと思います。人間社会でも同じかもしれませんね。