緊張の糸


 還流加熱という実験操作を頻繁に行なうことがあります。反応溶液の入ったナス型フラスコに玉入り冷却管を挿し込みます。その際、冷却管がフラスコから抜けてしまわないようにする必要があります。

 ある学生が還流加熱の準備をしていた。必要な試薬と溶媒をフラスコに入れ、玉入り冷却管を取り付け、爪(フック)に輪ゴムを引っ掛けて、しっかりと結びつけた。そうして一体化した反応装置の冷却管部分をクランプで固定し、フラスコ部分を油浴に浸けて120度で加熱を始めた。
 還流し始めて定常状態になったので、「他のことをしててもいいかな」と思って振り返った瞬間、後ろでブチッという不吉な音がした。油浴の様子を見ると、フラスコが油浴の中に落ちて、プカプカ浮いていた。油の中から試薬を回収することもできない。学生の緊張の糸も切れてしまい、反応をやり直すことがなかなかできなかったのであった。

輪ゴムは100度程度位までなら大丈夫ですが、それ以上ですと切れやすくなります。少し余裕を持たせると弾性を発揮する一方で、引っ張ってしっかり留めていると、張力が働いてむしろ弱くなってしまいます。あと、バネでも輪ゴムでも良いのですが、クランプでフラスコを固定しておくと落ちなかったはずです。そのような原因が複合的に作用したのでしょうね。