魚雷


 実験室で必要不可欠な機械の1つにロータリーエバポレーターがあります。お金持ちの研究室では減圧度がデジタル表示される機種を使用していることがあります。この機械、使用していない時は大気圧を表してくれるので天気予報にも使うことができます。

 ある学生がドライアイスーアセトンバスを使った低温実験を終えて、後片付けをしていた。冷えたアセトンを処理しようと思った際、エバポレーターが視界に入った。「低温のアセトンを濃縮したら、圧力の表示はどないなるんやろ」という疑問を抱いた。思ってしまったら最後、試さずに居れないのが科学者の性である。早速に-70度位に冷えたアセトンをナス型フラスコに入れて、30度の湯浴に浸けて濃縮を始めた。その時にドライアイスの小さなかけらも入ったが、気にしないことにした。
 実際に濃縮を始めると、フラスコの中が激しく沸騰した。そして、減圧しているにも拘らず、中は加圧状態になり、フラスコが圧力に負けて魚雷のように湯浴に吹き飛ばされ、粉々に砕け散った。一方、機械の方は、激しい事故で止まった腕時計のように、魚雷発射時の減圧度でデジタル表示が止まったまま動かなくなっていた。学生は、機械が壊れなかったことが不幸中の幸いと思いつつも、しょうもないことを試してしまった自分に呆れ果てたのであった。

アセトンが激しく沸騰したのも一因ですが、ドライアイスが気化して体積が一気に膨張したことが主な原因であると思われます。ドライアイスを使う時は密閉系にしないように注意するべきですね。