煙突


 実験をしていますと、ガラス器具は汚れます。洗剤等で洗えば落ちる汚れがほとんどですが、中にはこびりついてなかなか落ちない汚れもあります。

 ある学生が原料合成をしていた。大きめのスケールで試薬を仕込み、油浴で還流加熱をしていると、反応を終えた時には玉入り冷却管の中に副生成物の固体がこびりついて真っ白になっていた。「これだけの汚れを落とすのは大変やな」と思った学生は、以前に硝酸を使えばフラスコの汚れが綺麗に落ちたのを思い出した。
 玉入り冷却管の上から硝酸を少し流すと、白い汚れが落ちていく様子が観察された。それに気を良くした学生は、さらに硝酸を流した。すると、激しく分解が進行し、冷却管の中は褐色の煙で満たされ、上部の口から煙が立ち昇り始めた。そして、激しさの影響で硝酸も吹き出して、あたりに散り始めた。学生はドラフトチャンバーの扉を閉めて、煙が収まるのを待ち、その後に飛び散った硝酸を掃除しなければならなかったのであった。

硝酸は酸化力のある酸ですので、汚れを落とす力が強く時々使われます。言い換えますと、反応性が高いのでこのケースのように暴走することもあります。また、アルコールと反応して硝酸エステルを作りますと、爆発性を示すことがありますので、使用の際には十分な注意が必要です。結果的に、普通に洗浄していれば面倒でなかったかもしれませんね。