酸味


 高校の教科書にも載っていますが、フェノールは炭酸よりは弱酸で水よりは強酸です。言い換えますと、有機溶媒に溶けているフェノールを抽出するには、炭酸水素ナトリウム水溶液ではできませんが、水酸化ナトリウム水溶液を使えば可能になります。

 ある学生が反応混合物の分離をしようとしていた。目的とする反応はフェノール骨格を構築するものであり、反応混合物のNMRにもそのシグナルが観察されていた。しかし、副生成物も含まれていた。カラムクロマトグラフィーで分離をするにしても、TLCのRf値が近すぎて分離できそうにない。そこで、先生に相談すると、「副生成物はフェノール骨格やないから、水酸化ナトリウム水溶液で抽出したら、フェノールだけ取れるんちゃう」とのこと。そこで、学生は反応混合物を有機溶媒に溶かして、抽出を行なった。
 抽出した水層に塩酸を加えて弱酸遊離をしたところ、なにやら酸っぱい臭いが漂い始めた。通りかかった先生に「有機溶媒に何を使うた?」と訊かれたので「酢酸エチルです」と答えたところ、「それや!」と言われたのであった。

この場合、反応混合物を溶解させるために酢酸エチルを用いました。有機化学の教科書にもあるように、カルボニル化合物は高い反応性を示します。水酸化ナトリウム水溶液で抽出している間に、酢酸エチルも加水分解して酢酸ナトリウムに変換されていたものと思われます。溶媒を選択する際には、反応しないかどうかを考えるべきですね。