小さな衝撃大きな恐怖


 実験室で扱う試薬、あるいは合成した化合物には危険なものが沢山あります。毒性のあるもの、アレルギーを示すもの、発火するものなどなど。その中でも、特に怖いのは爆発性を示すものではないでしょうか。

 ある学生が銀アセチリドを合成していた。アセチレン上の置換基が大きければ安全であるが、水素やメチル基のように小さい場合は、爆発性を示すことは、学生も知っていた。だから、学生はいつもフェニルアセチレンを使っていたのだが、他の置換基のものを使ってみようということになった。そこで、嵩高いトリメチルシリル基を持つアセチレンを使うことにした。  硝酸銀のアンモニア水溶液に、シリルアセチレンを滴下するとアセチリドが白色沈殿として得られたので、生成した沈殿をヌッチェ(ブフナー漏斗)にあけてろ過を行なった。
 反応容器から垂れている最後の一雫を何気なくヌッチェの縁できった。その瞬間「パチッ」という音を立てて火花が散り、しずくを切ったところが黒く焦げていた。その時、学生はアンモニアの塩基性でシリル基がはずれてしまい、無置換の銀アセチリドが生成してしまっていることを悟ったのである。「すると、目の前にある白い固体の山は・・・」と考えると恐ろしくなり、アセチリドが乾燥してしまう前に、酸を加えて処分したのであった。

このように危険性が高い試薬を扱う場合は、十分に先生と相談をして、安全に配慮して実験を行なわなければなりません。