奈落


 機械を使用していますと、故障やら不具合が生じてしまうことがよくあります。自分たちで解決できる場合は良いのですが、業者の人を呼ぶとなりますと、たとえ直らなくても、来てもらうだけでお金がかかります。その辺りの事情は学生もよく分かっており、トラブルによっては不安そうな顔をしています。

 ある学生がNMRの測定をしようとしていた。NMRチューブは先が割れて短くなっていた。先生には「短いのは捨てるように」と言われているものの、勿体ないので使用していた。測定するチューブをマグネットに入れようとすると、キャップが外れてマグネットの底に落ちてしまった。普段から聞いている「マグネットは心臓部やから、汚したらあかんで」という言葉が頭の中で繰り返され、「大変なことをしてしもうた」という思いから、奈落の底に落ちた気分になった。しかし、何もしない訳にはいかないので、先生に報告に行った。
 報告を聞いた先生は2 m弱のガラス管とセロテープを持って行き、セロテープの粘着面を外向きにした輪っかを作り、ガラス管の先端に取り付けた。そして、静かにマグネットの中に挿し入れ、キャップを難なく取り出した。先生は「こんな時は、ピンセットを使うたらあかんねんで。マグネットに張り付いて、取れんようになってしまうから。」と解説をしてくれたのであった。

これはうまく行った場合の話です。最悪なのは、先生に報告せずに自分たちで対処をしようとして、傷口を拡げてしまい、結局業者の助けを借りなければならない時です。ホウレンソウ(報告・連絡・相談)は大切ですね。