ある日突然


 研究室では、同じような日々が繰り返されていますので、ずっと同じ状況が続くと思いがちです。しかし、ある日突然崩れることがあります。

 ある学生が論文用のスペクトルデータを集めていた。先生にチェックをしてもらったところ、「生成物の1H NMRだけやなくて13C NMRを要るやろ」と言われた。それに対して学生は「他の論文とかを見ていても少量の場合やったら13C NMRのデータがないこともあるんで、大丈夫やと思います」と反論した。先生は「そこまで言うんやったら、いっぺんその状態で投稿してみ」と答えた。学生が雑誌に論文を投稿すると、やはりと言うか案の定と言うか、レフェリーから13C NMRも追加するように要求され、学生もようやく納得した。
 13C NMRを測定しようと試料が保管されている冷蔵庫の扉を開けると、冷気ではなく暖気が出てきた。冷蔵庫の寿命が尽きたのである。学生が慌てて1H NMR
を測定すると、そこにはラベルに書かれている構造とは全く異なるスペクトルが現れていた。それから2ヶ月の間、学生はスペクトルを測定するためだけに、すべての化合物を合成し直して、精製したのであった。

今回のように低温で保存しなければならない化合物でなくても、保管している間に徐々に分解等を起こす化合物は沢山あります。使うかどうかは別として、測定できる時にデータを全て取るというのは基本ですよね。