水柱


 学生実験で用いる器具や機器は予算の関係上、研究室で用いるものに比べて安価なものが多いです。要求される質のレベルもそれほど高くないのも一因です。そういう背景から、研究室で不要になった機器を、お下がりとして学生実験で使うこともあります。

 ある学生が学生実験で濃縮をしていた。エバポレーターを用いて酢酸エチルを減圧留去する実験である。しかし、学生が使っていたアスピレーターは能力がかなり低下していて、減圧度がそれほど上がらなかった。学生がナス型フラスコに、濃縮する溶液をたっぷり入れてエバポレーターに取り付け、減圧濃縮を始めた。しばらくした後、ナス型フラスコが溶媒の重みで水浴に落ちてしまった。
 通常なら、それほど問題にはならなかったはずである。しかし、学生はさっさと終わらせて早く帰りたかったので、水浴を沸騰寸前にまでバーナーで加熱していた。フラスコからこぼれ出た酢酸エチルは、沸点以上のお湯に触れたため、即座に気化し、バーナーの火が引火した。その瞬間、「どーん!」という大きな音とともに天井まで届くかと思われる水柱が立ち上がった。実験室にいた学生たちは、その音と風景に凍りついてしまい、その後は普段以上に慎重に実験を行なったのであった。

最近は直火ではなく、電気加熱に替わってきていますので、引火の事故は少なくなったと思いますが、有機溶媒は可燃物であると、常に認識して扱わなければなりませんね。