算定基準


 科学的に論じる際、定性的な話だけではなく定量的な話をする必要があります。合成化学では、収率がそれに当たります。

 ある学生がFriedel-Crafts反応により、アセトフェノンを大量合成していた。無水酢酸のベンゼン溶液に塩化アルミニウムを加えて加熱するだけの反応である。順調に行ってたかに見えたが、全ての後処理を終えて、生成物の収率を計算すると、学生は愕然として落ち込んでいた。
 その様子を見かねた先輩が「どないしたん?」と声を掛けた。
 「収率が0.2%しかなかったんです」  先輩は「そんなに難しい反応やないやろ」と言いつつ、フラスコを手に取るとそれなりの量の液体があったので、「計算間違いでもしてるんやろ」と言うと
 学生は「ちゃんとアセトフェノンのモル数をベンゼンのモル数で割ってます」と答えた。
 先輩は思わず「それや!」と叫んだのであった。

収率とはロスなく完全に生成物が得られた時を100%として計算しますので、いくら頑張っても無水酢酸のモル数よりも多くのアセトフェノンが得られるはずがありません。この場合は、ベンゼンを溶媒兼試薬として使っていますので、ベンゼンと同じモル数の生成物ができるはずありませんよね。