豚に真珠


 寒い季節になりますと、大学では最も忙しい時期になります。修論、卒論が間近に迫っていますし、学会もその後に控えているからです。研究室にいる時間内にデータ処理が追いつかない学生は、家に持ち帰って処理の続きをすることもあります。

 ある学生が終電に揺られて家路についていた。乗る前に買ったジュースは飲み干した後、空き缶を電車の床に置いていたが、降りる前に拾うことは忘れなかった。見ている人がほとんどいない中で、マナーを守った自分に小さな自己満足を覚えながら電車を降り、空き缶用のゴミ箱に捨てた。家に帰った学生は慌てた。電車のシートの上にチャートや実験ノートを置きっぱなしにししたことを忘れていたからである。翌朝、学生が駅に電話して問い合わせたところ、忘れ物として預かっているとのことであり、安堵をした。
 大学へ向かう途中に、駅の事務室に寄ってデータ類の入っている鞄を受け取った。しかし、鞄の中を覗いた学生は愕然とした。データはあったものの、実験ノ-トが1冊とチャ-トが数枚なくなっていたのである。自分にとっては大切なものであるが、他の人にとっては「豚に真珠」である。その後の数日は、抜けたデータを取り戻す実験をしなければならなかったのであった。

すぐに集めることができるデータなら、まだリカバリーできますが、貴重なデータですと、泣くに泣けません。データ管理はしっかりとするように致しましょう。