深呼吸


 実験室で扱う試薬には臭いものも数多くあります。何度も使っているうちに、慣れてくるものですが、初めて扱う際は、非常に臭く感じてしまうものです。

 ある学生が原料合成でピリジンを大量に使うことになった。周りの人から「ピリジンは臭い」と何度も聞かされていたので、必要以上に警戒していた。使う前に大きく深呼吸をして、息を止めた状態でメスシリンダーで量り取ることにした。
 予定では、量り終えるまで息が続くはずであった。しかし、少し実験台の上にこぼしてしまった。こぼれたピリジンを拭き取るという予定外の行動をしたために、息が続かなくなった。耐えきれなくなった学生は息継ぎをした。しかし、普通に息をする以上に、大量にピリジンの蒸気を吸い込む羽目になった。鼻と口の中にピリジンのにおいが充満したため、学生は我慢できなくなり、トイレに駆け出し、先ほど食べたばかりのお昼ご飯と一緒に吐き出してしまった。それを見た先生は「ピリジンで吐いた学生はおまえが初めてやで」と大笑いしていたのであった。

むやみに試薬の蒸気を吸い込むことは危険です。しかし、息を止めたりなどの手段を講じるくらいなら、面倒くさがらずにドラフトの中で量り取るようにしましょう。