よくぞご無事で


 学生実験では、学生が失敗をしたり、事故を起こしたりしないように、先生が丁寧に説明するのですが、学生はその説明をほとんど聞いていないことがよくあります。

 ある学生が酢酸エチルで抽出を行ない、その有機層を濃縮していた。事前に先生がエバポレータについて説明をしたにも拘らず、それを聞いていなかった学生は、エバポレータの存在そのものを知らなかった。学生は小学校の理科実験で食塩水を濃縮したことを思い出し、ビ-カ-に酢酸エチル溶液を入れて、下からバ-ナ-で加熱し始めた。小学生の時と違うのは有機溶媒を扱っていたという点である。しかし、その違いが大きかった。
 突然、「ボッ!」という音とともにビ-カ-が炎上したのである。しかし、その学生は慌てる様子もなく雑巾をかぶせて火を消しながら加熱を続け、引火しては消すという操作を繰り返していた。先生がそれを見つけて即座にやめさせたが、学生は怒られていても「あっ、そうだったんですか」とのんびり応答していたのみであった。

一歩間違えれば、爆発事故になっていたかもしれません(有機溶媒の事故はガス爆発より被害が大きいことが多いです)。本当に胸を撫で下ろしていたのは、先生だったでしょうね。