色眼鏡


 試薬屋さんから購入した試薬は、当然のことながら純度の高いものですが、不安定な化合物は、時に一部が分解していることがあります。

 ある学生が原料合成しようとしていた。注文していた試薬が届いたので、ふたを開けてみると試薬は黄色く着色していた。学生は、分解した不純物が含まれていると思って蒸留で精製してから使用することにした。実際に蒸留をすると、受器には無色の液体が溜まって、見るからに精製されている様子が確認された。しかし、原料合成を始めてみると、文献通りの方法で行なっているにも拘らず、原料が全く得られなかった。蒸留しては使用するという操作を何度繰り返しても同じである。
 学生は半ば諦め、半ばヤケクソの気持ちで、蒸留しない黄色い状態のままで試薬を使ってみた。すると、それまでの苦労がまるで嘘のように、あっさりと反応が進行し、大量の原料を得ることができたのであった。

蒸留して精製していたつもりが、加熱によって分解したのでしょうね。“色がついている”状態がすなわち“分解している”と色眼鏡で見ていたのが、失敗の原因だったようですね。