フライング


 どこの世界にも先輩後輩の関係はあります。普段から色々と世話になっている分、教員の言うことよりも先輩の言うことを良く聞く学生もいるほどです。その分、研究室では、先輩は怖い存在でもあります。

 ある学生がエバポレ-タ-を使って濃縮をしていた。一緒の部屋で実験をしている先輩がそれを見て「その濃縮が終わったら、後で使わせて」と言った時から、学生は緊張し始めた。何しろ、その先輩は、濃縮がとっくに終わっているのにナス型フラスコがくるくる回っているのが嫌いで、それを見る度「他の人に迷惑がかかるんやから、はよはずせよ」と注意をしていたからである。
 学生は先輩に注意されないように、濃縮の終わりが近づいてくると、エバポレ-タ-の前に立ち、終了と同時に先輩にバトンタッチしようと身構えた。そして、濃縮が終了したので、コックを開いてエバポレーターを常圧に戻し、フラスコを取りはずした。しかし、それはフライングであった。ほぼ常圧に戻ったと思われたナス型フラスコは、まだ少し減圧であったためにフラスコの口から勢いよく入り込んだ空気は濃縮されたばかりの液体を吹き上げてしまった。学生は飛び散った液体を溶媒で洗い落として、再度濃縮せざるをえず、先輩の「そんなに焦らんでもええんやで」という優しい声にも、「済みません!」と身を縮まらせてエバポレ-タ-の前に立って濃縮の様子を見守っていたのであった。

このような先輩のプレッシャーの下、エバポレーターのプレッシャーの戻し方を学んでいくのでしょうね。