柔軟な対応


 実験器具は総じて高価です。カタログを見ていますと、「なんでこれがこんな値段もんすんの!」と思うこともしばしばです。

 ある学生がNMRのキャップを探していた。各自数個ずつ配給されていたのであるが、管理の悪さから、小さなキャップがあるべき場所にないのである。だからと言って先生に「失くしたんで、新しいのを下さい」とも言いづらい。あちこちを探していると、ガラス製品の細い管の先端が欠けないように付けてある、塩ビ(ポリ塩化ビニル)製のキャップが目に留まった。もう必要がないとのことなので、もらってNMRのチューブにはめてみると、まるで測ったかの様にぴったりのサイズであった。
 そのキャップはラッキーアイテムであったのか、新しくシグナルが現れ、何かしらの反応が進行している様子が窺えた。しかし、喜びも束の間、どの反応系でもそのシグナルが現れるのである。流石に「これはおかしい!」と思って、先生に経緯を説明してみると、「塩ビの可塑剤に入れてあるフタル酸エステルちゃうか」とのこと。学生が、実際に標品のチャートと見比べてみると、全く同じチャートがそこにあった。

自分では柔軟に対応したつもりですが、柔らかくなっていたのはキャップの方でしたね。