消費期限


 溶媒は反応場を提供するだけでなく、発生した反応熱を発散させる役割も担っています。当然のことながら、それ以上に余計なことをしてもらうと困り者です。

 ある学生は卒論発表会を目前に焦っていた。目的の化合物がどうしても合成できないのである。なにかきっかけでも掴めないかと思い始めた頃、何か新たなシグナルがNMRで観察された。どうやら目的の化合物ではないようであるが、単離して構造決定を試みた。各種スペクトルデータから導き出された構造は、5員環のγ-ラクトンであった。
 どのようにして生成したかはわからないけれども、単離できた生成物である。喜んで先生のところに報告に行くと、「これは溶媒のTHFが古くなって酸化されたんやなあ」とのこと。それまでの苦労を思い起こして、ふと虚しさを感じたのであった。

安定剤が入っている溶媒は、反応性が高く構造変化しやすいものであるということを意味しています。蒸留しますと、安定剤が除去されますので、早めに消費してしまうべきですね。