誤表示


 有機化合物は、どれも同じような色をしていますので、見た目だけでは、構造まで分かる訳がありません。ですので、ラベルに構造を書いて、サンプル瓶に貼付けておく必要があります。

 ある学生が自分の反応に使える基質を探していた。試薬棚を一通り見たが、自分の反応に適した試薬は見つからなかった。ふと横の実験台を見ると、大きなサンプル瓶が置いてあった。先輩が原料として合成した化合物が入っているのだが、その瓶に貼付けてあるラベルを見ると、まさに自分が求めていた構造である。少しだけもらって試してみたいと思ったが、日曜日で先輩は来ておらず、頼むことができない。そこで学生は、数十 g の中から0.1 g 位使っても、事後報告で許してもらえるだろうと思い、その化合物を使った反応を試してみることにした。
 反応混合物のNMRをチェックすると、何かしら反応した様子である。喜んで解析を始めたが、どうも自分の反応ではできなさそうな骨格である。「もしかして?」と思い、サンプル瓶の化合物をNMRでチェックしてみると、同じシグナルパターンが現れ、その日を無駄にしたことを悟った。翌日になっても、学生は無断で拝借しただけに「その化合物の構造が間違えていますよ」と先輩に指摘する勇気も持てず、自分の実験に専念したのであった。

ラベルには正しい構造を書かなければなりませんね。当然のことですけれど。