額面通り


 新年度が始まりますと、新しい顔ぶれが研究室に入ってきます。当然のことながら、実験に関しては初心者です。指導する側が常識と思っていることが彼(女)らにとって常識であるとは限りません。

 ある学生が研究室に入ってから初めての実験をしていた。先生からは「その反応が終わったらNMRでチェックしといて」という指示を受けた。そして、言われた通り、NMRを測定した学生は先生のところに報告に行った。
「反応したんですけど、生成物のシグナルが全然見えません」
「おかしいなあ。そんなに難しい反応と違うんやけどなあ。原料は回収されてるか?」
「いえ、原料のシグナルも見えてません」
「そしたら何が見えてるん?」
「溶媒のシグナルしかありません」
「もしかして、反応終わった後、濃縮したか?」
「いいえ、先生は濃縮しろと言わんかったんで」
「・・・」
 先生は、反省しつつ丁寧に再度説明したのであった。

普段通りの指示を出していても、実験について経験の浅い学生は理解できておらず、額面通り受け取ってしまいますので、気を付けなければなりませんね。