先祖返り


 実験をやっていますと、用いる試薬は必ずしも市販されている訳ではなく、自分で合成しなければならないこともあります。

 ある学生の実験で、カルボン酸のアンモニウム塩が必要になり、自分で合成しようとしていた。カルボン酸の溶液にアンモニアガスを吹き込むと、アンモニウム塩が沈殿として現れた。そして、吸引ろ過をして得られた固体を見て、「思ったより簡単にできた」と思った。
 実際に反応に用いる段階になって、学生は少し乾燥しておくことにした。アンモニウム塩をシャーレに薄く敷き詰め、デシケータ内に置き、真空ポンプで減圧乾燥を始めた。どうせなら完璧に乾燥しておこうと思い、少し長時間減圧した。しばらくして、デシケータ内を覗くと、乾燥しようとしていた固体は跡形もなく消え、そこには液体が残っていたのみであった。

アンモニウム塩は平衡でアンモニアとカルボン酸に分離します。減圧乾燥をしていたために、アンモニアが除かれ、カルボン酸が残ったのだと思われます。なんでもかんでも同じように操作を行なうのではなく、それぞれの場合に応じて、実験方法を考えなければなりませんね。