墨俣城


 戦国時代に木下藤吉郎(後の豊臣秀吉)が墨俣に一夜で城を築き、戦局を有利に導いたという逸話があります。一夜でなければ、そこまでインパクトはなかったのかもしれません。

 ある学生は反応条件の検討に疲れ切っていた。この3ヶ月、溶媒から反応温度や後処理に至るまで、考えつくファクターを全て変えてみたが、収率があるところから伸びないのである。先生は「他に何が得られているのかを解析してみ」と言うのだが、いざ分離をしようとしても、副生成物の単離はできず、もうこれ以上打つ手がない状態であった。
 ある日、研究室内の報告会で、仕込んだ原料の塩と反応混合物の重さを示したところ、先生が「この重量関係はおかしくないか」と疑問を呈した。よくよく考えてみると、原料に塩を用いているが、その対アニオンを分子量に加えていないことが判明した。その日、1日かけて、これまでの実験結果の計算をし直したところ、収率はすでに96~98%に達しており、学生は一夜にして、高い収率が並んだ表を手にしたのであった。

実験を始めたばかりの学生は、重量の感覚がなかなか身に付かないものです。しかし、ただ何も考えずに重さを測るのではなく、反応混合物の重量がどれくらいになるのかを予想しながら測る癖をつけると、そのような感覚も自然と身に付いていくと思います。