バケツに水を入れていくと、いつかは満杯になる時があります。それまでは、いくらでも入りそうな気がするのですが、満杯になりますと、少しでも追加されると、その分溢れてしまいます。アレルギーも同様で、大丈夫だと思って大量に体の中に入れたりしますと、ほんの微量でも敏感に反応してしまうようになります。
ある先生は、学生が仕込んでいた反応系が噴き出した際に、大量のジメチル硫酸を吸い込んでしまった。それから3週間、痰が出続ける生活を余儀なくされた。その症状もようやく治まった頃、先生は時々、痒みを感じるようになった。それは毎日ではないものの、症状が現れた時に腕を見ると、血管に沿ってぶつぶつが出て、いかにも体の中を悪いものが走っているという感じであった。しかし、30分ほどすると、何事もなかったかのように痒みが治まるのである。
ある日、反応混合物のNMRを測定した後、チューブを洗っていた。その時、チューブ内の溶液の飛沫が指に付いた。それはほんの微量であったが、その後、いつもの痒みが襲ってきた。そして、以前に事故を起こした学生と同じ出発原料を扱っている時に、その症状が現れることに気付いた。それからというものの、ゴム手袋が実験に不可欠になったのであった。
研究室に入った頃は、試薬を慎重に扱っているのですが、徐々に慣れてきますと、「自分は薬品に対して強いのかも」と過信するようになり、大胆に扱うようになります。しかし、上の例のように、大量に体の中に入ってしまいますと、満杯のバケツ状態になり、ほんの微量でもアレルギー症状が現れてしまうようになります。できる限り、皮膚に付けたり吸い込んだりしないように気を付けるべきですね。