13C NMRは化合物の骨格に関する情報が得られるという点で、非常に有用なスペクトルです。ただ、1H NMRとは異なり、同位体の存在比と感度の低さから、積算回数を多くする必要があります。薄いサンプルですと、4級炭素がノイズに隠れて見えないということもあります。逆に多く見える時は不純物が含まれているということでしょうか。
ある学生が基質の適用範囲を拡げるために色々なアシル基の導入を行なっていた。得られた化合物は新規化合物であるので、単離精製して、各種スペクトルデータをそろえなければならない。順番に測定していったところ、トリフルオロアセチル基を導入した化合物の順番になった。1H NMRはきれいで不純物のシグナルが見えなかったが、13C NMRを測定すると1本多い。何回数え直しても結果は同じである。そこで、学生はそのシグナルを見なかったことにして、数字に起こして先生のところに報告に行った。
先生はその数字を見ると、「横にもう1本見えへんかったか?」と尋ねた。学生は「どこかで盗み見されたんやろか」と思いつつ「なんでですか?」と尋ねた。先生は「炭素とフッ素はカップリングするから、この炭素はカルテットで出てるはずなんやけど」と説明してくれた。そこで、席に戻ってスペクトルを見ると、2本のシグナルの両サイドにノイズに隠れそうになりながら、小さなシグナルが2本生えていたのであった。
実験データやスペクトルデータは、つい自分の希望に沿って解釈をしてしまいがちですけれど、客観的に見て、そこから先入観を持たずに解析をすることが重要ですね。