チキンレース


 テレビ番組の作成に関わる人は、視聴率の高低に一喜一憂します。合成化学に携わる人は収率という数字に翻弄されてしまいます。

 ある学生が研究室に配属されて初めての実験をしていた。化合物を合成する実験なので、当然のことながら、先生から「収率を出しといて」と言われた。学生は空のフラスコの重さを測り、化合物の入っている状態で再度測った。その値の差を化合物の分子量で割り、さらにその値を仕込んだ原料のモル数で割った。ごく普通の、ごく単純な作業である。しかし、その時点で「50」という数字が得られていた。%表示にするために100をかけると、収率はなんと「5000%」。電卓に現れた数字を鵜呑みにしてしまう素直な学生は馬鹿正直に先生に報告をした。
 それを聞いた先生は笑いながら「実験うまいな」とか「触媒反応より効率のええ反応やな」と言ったが、学生はそれが冗談であるともわからず、なんとか食い下がろうと「計算は間違えていません」と言い返した。すると、先生には「そしたら、実験が間違えているんやわ」とあっさり返され、実験をやり直す羽目になったのであった。

収率は100%に近づけば近づくほど、素晴らしいけっかであるとか、実験上手であるとか言われますが、100%を越えた瞬間に、その輝きを失ってしまうチキンレースのようなものですね。