道半ば


 反応条件を検討する際は、闇雲に変えてもなかなか良い結果は得られません。実際にフラスコの中でどのような反応が起こっているのかを考えた上で検討をするものです。

 ある学生が酸クロリドとアミンから酸アミドを合成していた。教科書にも載っているような単純な反応であるにも拘らず、いくつかの生成物が得られるし、原料の回収も認められた。収率を上げるために、反応温度や時間などを色々と変えてみたが、収率は50%の壁を突き破ることができなかった。思いつく条件を一通りやって万策尽きた学生は、先生に相談をした。
 「酸クロリドと等モルのアミンを溶媒の中で撹拌しています」と説明すると、先生が「塩基は?」と尋ねた。学生が「入れてません」と答えると、「これまでの条件検討は全部無駄やったな」と先生に言われたのであった。

教科書に載っているような単純な反応です。酸クロリドとアミンが反応して、酸アミドを与えるのですが、等モルの塩化水素も副生します。アミンは塩基性化合物なので、塩化水素と塩を形成しますが、非共有電子対が使われるので求核性を失います。その結果、アミド形成のために消費されたアミンと等モルのアミンが塩化水素によって失活してしまうので、いくら頑張っても50%の壁を乗り越えることができなかったのです。炭酸ナトリウムのような無機塩を共存させると、反応は効率良く進行するのですけれどもね。