てにをは


 反応を行なって、それがうまくいったかどうかを表す指標として収率を用います。しかし、似たような反応が続きますと、毎回単離して収率を出すということなんてできません。そのような場合、内部標準となる化合物を反応混合物に加え、NMRを測定するだけで、収率を算出するという方法を採ることがあります。

 ある学生がNMR収率を計算していた。毎回低い値しか得られず、「どうしたもんか」と悩んでいた。そこで、先生のところに相談に行った。先生はまず、NMR収率を算出した後の反応混合物をカラムクロマトグラフィーで分離して、単離収率を出すように指示をした。すると、NMR収率とは比較にならない位の高い値が得られた。
 その旨を先生に伝えると、NMR収率の出し方に関する事情聴取が始まった。学生は「先輩に教えてもらった方法ですけど」と言いながら説明を始めた。「反応混合物標準試薬入れて」と言った時点で、ストップがかかった。「反応混合物標準試薬入れる」やろ、と先生に指摘されたが、学生は頑なに「先輩に言われた通りで間違いありません」と言うていた。しかし、抵抗の甲斐もむなしく、全ての実験をやり直さなければならなかったのであった。

最近、学生の書いている文章を見ていますと、「てにをは」がちゃんと使えていない人の割合が増えているように思います。普段から単語に毛の生えた程度の語彙で会話しているので、そのあたりは注意していないのでしょうが、場合によっては伝えようとしている意味が相手に伝わっていないこともありますので、注意が必要ですね。