乾坤一擲


 スリ合わせのガラス器具を扱う上で最も注意しなければならないのは、スリの部分を汚さないということです。汚したまま使っていると、くっついて取り外しができないことがあります。

 ある学生がエバポレータの掃除をしようとしていた。回転棒を外して先に付けてある異径ジョイント(段落とし)が抜けなくなっていることに気付いた。くっついてしまってから、かなりの時間が経過しているようでありなかなか頑固であった。そこで、先輩達に順番にスリの外し方を尋ねていくことにした。最初の先輩が教えてくれたのは、溶媒を染み込ませて潤滑油にして外すというものであったが、染み込む様子が見られなかった。次の先輩に訊くと、バーナーで周りを炙って、外側だけが膨張したタイミングを見計らって抜くという高等テクニックを教えてもらったが、学生には少しハードルが高かった。
 他に何か良い方法はないかと3人目の先輩に尋ねたところ、「回しながら木槌とかで軽く叩いていけば外れるで。僕がやったろか。」との返事。その先輩は力の加減が少しできないということに一抹の不安を抱えながら、「お願いします」と手渡した。受け取った先輩が木槌を振り下ろすと、スリが外れるのではなく、くっついている部分全体が砕かれてしまったのであった。

「ガラスは割れるもの」という事実を知らない学生は意外と多いものです。