気遣い


 研究室の生活は一般の人にとって想像しにくいものであり、詳しく話をしたとしても、なかなか伝わらないものです。

 ある学生は研究テーマとして硫黄化合物を扱っていた。ご多聞に漏れず、生成物だけでなく副生成物に至るまでとにかくくさい。研究を始めた頃は、臭いに耐えきれず、実験を放り出して先生に怒られたこともあったが、数ヶ月経った今では、実験技術が向上してきたのか、くさいと感じることも少なくなり、消臭剤を服に振りかけることもなくなった。
 ある日、学生が居間でテレビを見ていると、隣の部屋で母親と弟が自分のことについて話しているのが聞こえてきた。聞き耳をたてると、「兄ちゃんは風呂に入ってるんかなあ?」「体がくさいと言うたら、傷つくかもしれんから本人に言わんときや」。これまでも実験でくさい試薬を使ってるからと説明してきたつもりだったが、分かってもらってなかったことに愕然とした。そして、電車の中で、自分の周りにエアポケットが生じることを思い出し、自分が単に臭いに慣れてきただけであったことを悟ったのであった。

臭いは慣れてしまいますので、たまには関係のない人にチェックしてもらった方が良いですね。