暴走


 反応には発熱するものもあれば吸熱するものもあります。発熱反応では、出てきた熱が次の反応を加速するので、一旦始まると自発的に進行してくれます。

 ある学生がジクロロカルベンを用いた反応を行なおうとしていた。必要な試薬を加えたものの、反応系には変化が見られなかった。学生は「時間がかかるんかも」と思い、隣の部屋に行ってコーヒーを飲むことにした。しばらくして、隣の実験台の先輩が、学生の仕込んだ反応容器を見ると、色は黒ずみ泡が出始めていた。「これはやばい!」と思い、水を入れたボウルを持ってきて冷やしたが、効果はなく泡の量が増えていくのみであった。大声で後輩の名前を呼んだが、届いてないらしく、こちらは無反応であった。その内、フラスコを埋め尽くした泡が玉入り冷却管を駆け上り、先端から噴き出した。先輩はそれが飛び散らないようにするのが精一杯で、唇にアルカリの飛沫が付いたことも構っていられなかった。
 ようやく反応が収まった頃、休憩を終えた学生が戻ってきて、「どないしたんですか?」と尋ねたが、不機嫌な先輩は無言のままであった。

反応は時に暴走することがあります。反応を仕込む際は、始まるのを確認して、落ち着くまでそばを離れるべきではありませんね。