濃縮という操作は単純ですが、人の性格が割と反映されるものです。雑にやっている人の場合、濃縮後のNMRを見ると、常に飛ばしきれていない溶媒のシグナルが常に現れていたりします。それに対して、丁寧に実験している人の場合、NMRを見て再度濃縮を繰り返すということがほとんどありません。
ある学生は悩んでいた。反応に使うアルキンを合成しても収率が悪く、すぐに使い切ってしまうので、何度も原料合成を繰り返さなければならないのである。そして、何よりも、その都度、高い試薬を買ってもらうように先生のところにお願いに行かなければならないことが苦痛の種であった。しかし、そうは言ってられないので、収率を向上させるためにはどうすれば良いかを先生に相談した。
反応条件を変えたり、副生成物をチェックしたりしたが、原因不明で一向に収率は上がらなかった。ふと、先生が「シリルアセチレンのカップリングまでは収率良く行ってるのに、脱シリル化で収率が悪いのは、沸点が下がったからちゃうの」と言った。学生がSciFinderで沸点を調べると、やはり低く、濃縮の際に全部留去されていることが分かった。原因が分かったものの、なくなった原料が戻ってくるはずもなく、学生は再度合成を始めたのであった。
化学変換すると、物性が大きく変わることがよくあります。「原料が大丈夫だったから」というのは何の根拠にもなりませんので、物性が変わることを念頭に置きながら実験をするべきですね。