拍子抜け


 実験をしていますと、予定通りに進まないことが多々あります。1つの結果を得るために数ヶ月を要することもあり、根気強さが必要です。

 ある学生が反応を終えて後処理をしていた。試しに重クロロホルムを溶媒に用いてNMRの測定を試みた。その結果、目的生成物の前駆体が生成していることを示すスペクトルが得られた。これまで2ヶ月もの間、色々と試行錯誤してようやく辿り着いた結果に、学生は思わずガッツポーズをしていた。そして、「あと1段階」とやる気をみなぎらせた。ただ、その反応混合物は不均一系であり、収率を正確に求めることはできなかった。そこで学生は均一系にするために重DMSOを溶媒に用いることにした。反応混合物は容易に溶解して均一系になったので、内部標準を加えてNMRの測定を行なった。
 画面に現れたスペクトルは予想していたものとは異なった。溶媒が変わったからケミカルシフトがずれて異なったスペクトルに見えるというレベルを遥かに超えた変化を遂げていた。学生が新たに現れたスペクトルを解析すると、それはまさしく次の反応の目的生成物のものであった。最終段階を検討するまでもなく、DMSOに溶解させるだけであっさりと目標を達成してしまうという拍子抜けの幕切れに、ガッツポーズも出ることはなかった。

目的化合物が得られて嬉しいのは嬉しいでしょうが、色々と苦労した末に得られた結果の方が嬉しいものですね。