磁気焦燥


 普段通りの器具を使って、普段通りの操作をしている時に、普段通りの様子にならないことがありますと、非常に焦ってしまいます。

 ある学生が還元反応をしようとしていた。色々ある還元剤の中から、鉄粉と酸の組み合わせを選んだ。試薬と溶媒をフラスコに入れ、秤量した鉄粉を加え、最後に回転子を投入した。すると、先ほどまでフラスコ内に分散していた鉄粉が寄り集まり、回転子にへばりついた。「鉄が磁石にくっつく」ということを再認識した瞬間であった。
 反応が進行するに従って、表面から徐々に反応するからいいかと、気を取り直して反応を行なった。鉄粉をろ別した反応混合物を濃縮してNMRでチェックをしようとすると、今度はロックができない。よくよく考えると、ろ紙の目を通り抜けた微小な鉄粉が混入しており、それが邪魔をしていることに気付いた。「鉄が磁石にくっつく」ということを、2度も思い知らされた1日であった。

常識的なことですが、実際に目の当たりにしなければ気付かず、案外、思考の範囲外にあるものですね。